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1995年9月14日(木)15日(金) 国立劇場「日本の太鼓」

天邪鬼 高他毅

天邪鬼は1986年の末、渡辺洋一さんを代表として結成された、プロの和太鼓グループである。

渡辺さんはもともと、助六太鼓で活動していた。周知のように、これは戦後の後楽園や不忍池近辺の盆踊りで演奏されていたお囃子に邦楽的なリズム、所作、掛け声などを取り入れて洗練されてきた太鼓だ。東京の下町に生まれ、子供のころから祭りの賑わいに惹かれてきた渡辺さんの生い立ちを考えれば、納得できる係わりだろう。ちなみに現在彼と行動を共にしている小川ひろみさん、川名真由美さんも、学生時代から助六太鼓を学んでいて、天邪鬼の旗揚げと同時に加わった二人である。

しかし、話をここで終わらせては、彼らの現在の活動は理解できない。渡辺さんはもう一方で海外のリズム表現に深い関心を寄せており、特に早くからラテン音楽に傾倒していたと言われる。この辺りに、助六太鼓の枠に収まり切れなかった理由があるのはもちろんのことだ。

近年の和太鼓演奏者には、打楽器に限らずさまざまなジャンルの音楽とセッションを行う試みが多いが、天邪鬼にもそうした傾向が顕著だ。むしろ、時に自らを「不特定多数の集団」と呼ぶように、常に内外の多様な音楽分野とジョイントすることによって「天邪鬼」というグループは存在しているとさえ言えるだろう。しかし少なくとも渡辺さんの場合、単に時流に乗っているのではなく、本来もっていた嗜好に由来するものと考えるべきだろう。いかにも昔ながらの太鼓打ち然とした風貌を裏切るかのように、複雑なリズムを聴き取り、かつ表現する技術、経験、知識において、彼には群を抜いたものがあるし、また小川さん、川名さんの二人も「女性奏者としては」という限定抜きに、高度に洗練された演奏を展開する。天邪鬼と並ぶ奏者は稀だろう。

ただし、疑問もある。

海外のリズムに身を開く多くの和太鼓奏者と同様、天邪鬼の問題意識も「和太鼓の伝統を、世界に通用する形で現代に再生させること」にある。これは一つの選択として認めよう。しかし具体的にどのような音楽世界を作るかは、それぞれの個性による。彼の言う「凛美(凛とした美)」と技術的な完成度を求めるあまり、演奏が一種の苦行になってはいないかと不安に感じることがある。つまり、ステージ上の個々の奏者の感情を抑制しすぎてはいないか、と。

渡辺さんの舞台で、それこそ凛とした上質のユーモアを醸し出す演奏を聴いてみたい、ほぐれた天邪鬼をもっと見てみたいという、これは一太鼓ファンからの少々わがままなお願いと考えていただければ幸いです。

(たかたたけし・「たいころじい」編集人)